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お得意様限定御招待春夏物先取りセールがあるの、
と麻美が真剣な顔で言うので、
あたしはバーゲン会場に来たのだった。
人混みは苦手だし、
まだ北風が吹いているし、
夏物なんか欲しくはなかったのだけれども。

なのに麻美は会場に入ったとたん、あたしを置き去りにし、
ヒトの群れに紛れてしまった。
仕方なく手近にあった服をつかんでみたが、
金ぴかのTシャツは幼児用かと思うほど小さくて、
簾(すだれ)のようなニットには、巨大なクラゲが刺繍されていた。

あまりのことにぼうっとしていたら、
どんっと押されて弾き出された。
ちょうど、壁際に椅子が二脚。
誰もいない。
あたしは腰をおろし、やれやれと溜息をついた。

「いったい今は何月なんだ」
突然の声に驚いて隣を見ると、
着物姿の見知らぬおじいちゃんが座っていた。
まっすぐな視線に思わず「三月」と答えると、
おじいちゃんは会場を見渡しながら
「季節はどこへいったんだ」
と唇を歪めた。

つられてあたしも会場を眺める。
積みあげられ、つるされた色とりどりの夏服の合間に、
モヘアの袖なしワンピースを着た店員達。
革の半袖シャツにミニスカート、しかも素足、
という客の手には、脱いだばかりのダウンコート。
冬なんだか夏なんだか。
確かに、季節が定かではない。

つと振り返ったおじいちゃんが
「あんたは良い」
と大きく肯く。 
ぶどう色の長袖タートルにウールのロングスカート。
麻美が「ムカシっぽい」と笑った服である。

「皆があんたみたいなら、間違えることなどなかった」
わしも耄碌(もうろく)したな。いや、
ユーレイが耄碌するはずはないんだが。
え? と聞き返すあたしの前で、
おじいちゃんは笑いながら姿を消した。
煙みたいに。

そうか。おじいちゃんは、
冬と夏を間違えた季節はずれの幽霊だったか。
そういえば麻の単衣を着てたような。
足元は下駄だったか、雪駄だったか。
いや、それより足は、あったのか、なかったのか。
なんだかすべてが定かではないような気がして、
あたしは益々ぼうっとしてしまうのだった。

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「ミメディア」刊行の際に寄せて頂いたオススメコメント

◆幸坂かゆり さん

愛おしい小説である。
ヒロインはバーゲンなどに興味がないシンプルな女性。
けれど、彼女は流行を追わない分、「感じる」余裕がある。
「感じる」事ができるから幽霊と波長が合ってしまうのだ。
それも季節を間違えて出て来る可愛らしい幽霊に。
このおじいさん幽霊にヒロインは「あんたは良い」と、
ラスト近く褒められる。

何故こんな場所に出て来たのだろう?怖がらせようとしたのか?まさか。
お盆なんかと間違ったのだと思う。
節操のない世の中に出て来たおじいさん幽霊の胸の内を考えると切ない。
きっと彼女を通して孫なんかの面影を見たのではないか。
縁側でお茶でも飲んでいるような二人の空間。
そういう純粋でほのぼのとするものがこの世にはまだある、それが分かって安心して帰って行ったのだろう、そう思いたい。

おじいちゃん子の私にはぐっと来た。

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初出は、ゴザンス800字
お題は、
「季節はずれの」「バーゲン会場で」「おじいちゃんが」

なんだか、とりとめのないぼーっとした物語ですが。
実際のあたしも、こんな感じかも。
ほんとは、起承転結がはっきりしてる物語より、
とりとめのないまま終っちゃうような方が好きなんです。
でも、なかなかそんな勇気はなくて、
いつも「物語」というカタチにしてしまう。
くやしい。

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