
8月12日、午前2時過ぎ。
ちょうど、ブログ@ゴザンスで短い文章を書いていた時だった。
ほぼ書き上がり、今にも入稿しようかとマウスに力を込めた、ちょうどその時。
いきなりバンっと現れたメッセージボックス。
[PRCサービスが異常終了したため、再起動する必要が……]
はぁ?
その文面を理解する間もなく、次のボックスが立ち上がる。
[シャットダウンまで、37秒、36秒、35秒……]
え?え?えぇっ??
戸惑いながらも、なぜかわたしは即座に思っていた。
ヤラレタ、ウィルスだ。
ワケの分からないエラーメッセージが現れることなど、
珍しくもないというのに、今回だけは何かが違った。
ナニがチガウのかは分からないけれど。
ほんの数秒のあいだに、そんなことを考え、考えを巡らしながらも、
ブログのエントリーボックスにあるSAVEボタンをクリックしていた。
無意識のうちに。
9秒、8秒、7秒……。
[保存しました]
間に合った! と思ったとたん、
ブログの画面は消え、ブラウザが真っ黒に沈みこんだ。
PCが、しばし沈黙する。
カタカタカタ、と小さな振動のあとに、
ルルルルルとPC本体が空回りするような音がして、再起動。
立ち上がった。通常通り。
なんだ。気のせいだったのか。
が。
おそるおそるマウスを動かし、
インターネットエクスプローラーをクリックしたとたん、
[PRCサービスが異常終了したため、再起動……]
[シャットダウンまで、56秒、55秒……]
ああ。やっぱり。
そのわずかな隙に開いたブラウザに、目がとまる。
ケーブルサイトの最新ニュースに、「ウィルス」という文字。
[W32.Blasterと呼ばれるウィルスが……]
[詳細がマイクロソフトより……]
文字を拾い読みしながら、そこにリンクされたURLをクリックする。
[Windowsパソコンをご利用の方から「RPCの問題で――等の
メッセージと共にカウントダウンが始ま……]
これだ。
と思うまもなく、シャットダウン。
それからは、もう時間との戦いだった。
立ち上がるたびに、とにかく情報を収集しなくてはと、
「最新ニュース」にリンクされたマイクロソフトやシマンティックの
「対策頁」に、跳ぶ。飛ぶ。跳ぶ。
どうやら感染対象は、Windows2000と、XP。
アタシの愛機はXPだ。ちっきしょー。
なんて罵っているヒマもなく、PCはシャットダウンと再起動を繰り返している。
短いときは、立ち上がったとたんにカウントダウンが始まってしまう。
長くもって、2,3分。
その合間を塗って、対処方法を見つけなければならない。
まるで「底抜け脱線ゲーム」だ。(なんて、古すぎて誰も知らないか……)
しかも、その「対処法」ときたら。
まるでレポートをそのまま直訳したみたいなシロモノなのだ。
論文か?と思うような、あるいは超難解な取説か?とでもいうような長文が、
どのサイトでも延々と続いている。
わずかな時間で最初の頁を斜め読みしてみるが、
分かるのはワームの「概要」だけで、肝心の「対処法」が分からない。
こういう時は、とにかく「やるべきこと」だけを書いてくれー!と、
思わずPCに向かって叫んでみたが、応えがかえってくるわけもない。
なぜウィルスが侵入するのかとか、対処としてそれがなぜ必要かとか、
そんなことはあとでゆっくり読んで理解すれば良いことだ。
特に、専門知識を持たないPCユーザーにとっては。
まずは、このシャットダウンを止めるには、どうしたら良いのか。
するべきこと。してはいけないこと。するときに注意すること。
感染者(といっても感染しているのはPCだが、この際一心同体である)が、
「今」必要としているのは、それだけなのだ。
ええい、しかたがない。
とにかく、この辺りになんか書いてありそうだ、と見当をつけ、
ファイル>印刷、をクリックする。
すでにカウントダウンが始まっている。
シャットダウンが先か、プリンターがデータを読みこむのが先か。
じーこ、じーこと音をたてて、プリンターが紙を飲みこみはじめた。
やった。プリンターの勝ち!
プリンターが次々に紙を吐き出すその間に、
隣の部屋に行き、もう一台のPCを立ち上げる。
こちらは、Win95という既に前世紀の遺物化されてしまっているPCだが、
だからこそ、今回のウィルスに感染する心配はない。
このマシーンは、とにかく「当たり」で、6年ものあいだ酷使したというのに
何の不具合もなく、あまりにも使いやすいために捨てられなかったのだ。
よしよし、ウイ奴じゃ、とPCを撫でながら、メールソフトを立ち上げる。
アドレス帳から、アドレスを拾いつつ、どんどんBccに入れていく。
先ほど斜め読みした「ウィルスの詳細」には、「メール」についての記述はなかった。
ここ最近のウィルスは、感染PCに入っているアドレスへ宛てて、
大量のウィルスメールを送る、というものが多いと聞いている。
が、このウィルスは……?
とにかく、皆に知らせて注意をしてもらわなければ。
だが、そこで、ふと気づいた。
このメールソフトに入っているアドレスが、全てではない。
「いつものPC」には、このPC以降に加わったアドレスがいくつもあるのだ。
ということは、その人たちのアドレスが分からない。
なんてこと……。
旅行用にと「紙」にプリントしたアドレスもあるにはあるが、それももう古い。
この1年だけでも、増えたアドレスは計り知れない。
しかたがない。
とにかく分かるヒトたちにだけでも、お詫びとお願いの旨を送ることにする。
「送信」して気がついた。
「ウィルス対処」のサイトを見るなら、このPCでも見られるじゃん。
自分のボケ加減に呆れながらも、サイトを探す。
が、さすがに95。重い。遅い。
しかも、このPCでネットをするつもりはなかったので、
メールだけできれば良いからと、アナログ回線のままなんである。
かったるい。
その上、サイトが混雑しているのか、混乱しているのか、
どこもなかなか開いてくれない。
しかたがない、と、もう一度呟いて、わたしは自分の部屋に戻ることにした。
動きを止めたプリンターには、A4用紙が5枚、重なっていた。
この時点で、すでに午前3時を過ぎていた。
今から「対処手順」を始めてしまったら、あっという間に夜が明ける。
プリントにざっと目を通すと、このウィルスで受けるダメージは、
「コンピューターの異常終了」と、ネットへの「不正アクセス」らしい。
(*この時点では、やはりメールに対する影響などの記述はなかった)
ということは、PCを落として放置しておいても、
その間により感染が進むとか、ウィルスが増殖するなんてことはないらしい。
メッセージが出るより先に、いつもの手順で「終了」させてしまえば、
PCは正常に終了することができるはず。
そう考えて、次の立ち上がりを待つ。
立ち上がったとたんに、先手を打って「終了」させる。
成功。
大きなため息をついて、わたしは部屋の電気を消した。
(*この時、シマンティックのサイトに発表されていた「感染台数」は、
わずかに「0ー49」だった)
翌日。
やり始めたら時間がかかると分かっていたから、
まずは午前中に外出し用事を済ませ、午後になってからPCに向かった。
立ち上げるとき、もしかしたら、
「ゆうべはちょっと拗ねてみただけなの」
と言ってくれはしないかと期待したが、そんなことはあるわけもなく、
我がPCは、相変わらず、顔を光らせたり突然一気に暗くなったりと慌しい。
まるで重病にかかり、息をあらげて喘いでいるかのようにも見える。
可哀想に。
まずは、PCの「呼吸」を楽にしてあげよう。
開いたIEのケーブルサイトの「最新ニュース」には、
ゴシックで書かれた「注意!」の文字が躍っていた。
とにかく、昨夜のプリントにある手順を実行することにした。
[1、システムの復元機能を無効にする]
とあるが、まず、肝心のその方法が分からない。
PCをああだこうだといじるのは大好きで、ちっとも苦にならないが、
わたしには基本的なPC知識というものが欠けている。
(そんなんでよく、PCをいじり回す勇気があるもんだと我ながら怖ろしい)
仕方なく、もう一度情報を集めなおすことにする。
(*今現在、感染したらまずネットから切断すること、と記されているが、
昨夜プリントした文書には、それすらなかった)
と。
さすがに、どのサイトも更新されている。
ということは、感染台数がかなり増えているということだろう。
(*この時点で、一番進んでいたのは、トレンドマイクロだったようだ。
すでに駆除ツールらしきものができていた。
一番要領を得なかったのは、マイクロソフトである。
シマンティックもかなり更新されていたが、余計な記述が多すぎる)
そこでようやく、「システムの復元機能」の方法を見つける。
コントロールパネル>システム>ファイルシステム……と、
作業自体は簡単だ。時間もかからない。
が、コントロールパネルを開いたところで、シャットダウン。
もう一度やり直し。
2度目ではすんなり成功した。
さて、手順2。
[ウィルスの定義を最新版に更新する]
我がPCには、シマンティックのノートンアンチウィルスが入っている。
それで、LIVE UPDATEすれば、簡単だ。
が、ここで重大なエラーが!
タスクバーから開いて、一瞬現れるノートンには、
大きな「!」と共に、にっくきウィルス名が記されている。
そして、次々にエラーメッセージが現れる。
「このアンチウィルスソフトは、有効ではありません」
「最インストールしてください」
これもウィルスの仕業なのか?!
慌ててプリントをすみからすみまで読む。
が、どこにもそんなことは書いてない。
まったく、どないせいっちゅーんや。
アンチウィルスが使えないのでは、先に進むことができない。
ううむ。これはやはりサポートサービスに頼るしかないのか。
PCに向かいながら、子機をつかみ取り、
NEC(愛機はVALUESTARなので)に電話をかける。
もちろん、繋がらない。
一回で繋がるわけはない、と覚悟していたが、呆れるほどに繋がらない。
子機を片手に、シャットダウンを繰り返すPCのあちこちをいじってみる。
いざとなったらアンチウィルスを再インストールか、と、
PC関連の箱を探ってみるが、肝心のCDがみつからない。
え??
そういえば、このノートン、最初からPCにサービスインストールされていたものだ。
期間限定で。
期限が切れてからは、ネットで延長キーを購入し使っている。
CDがないのはそのせいなのか?
念のため、シマンティックから送られてきた登録メールを見てみるが、
確かに登録されたとは書いてあるが、IDがない。
なんでやねん。
子機片手に首をひねっていると、ようやくNECに繋がった。
この間、1時間くらいはゆうに経っている。
症状を説明すると、「ウィルスの可能性が高いですねぇ」と。
そんなこたぁ分かってるから、早く対処法を。
「申し訳ございませんが、こちらでは対処できません」
はぁぁ???
PCに入っているアンチウィルスのサポートを受けてくれ、という。
言葉遣いも対応も丁寧ではあるのだが、それでもムッとしてしまう。
指にマメまで作って(いや、それくらいの労苦を施して)
リダイヤルし続けたっていうのに。
いったい、なんのための「サポートサービス」なんだよ、と。
しかしこのヒトに文句をぶつけてみたって、事態が変わるわけはない。
シマンティックの電話番号を聞いて、再びプッシュ。
が、もちろん。
繋がるわけがない。
しかたがない。と、腹を決める。
こうなったら自分でやるしかない。
ウィルス定義の更新は、すっ飛ばし(できないものはしかたがない)
次の[ワームのプロセスを停止する]に移る。
シャットダウンの合間をぬって、タスクマネージャーを呼び出し、
「プロセス」の中のウィルスを探す。
おぉー、いたいた! 見つけたぞー。
コイツのプロセスを終了させる。OK!
と。
シャットダウンが、とまった?
……ほんとに、とまった、のか、な?
ずっと続いていた「しゃっくり」が出なくなったときみたいに、
息を止めて、様子をうかがう。
警告ボックスが出るのか? 出ないのか? 出る? 出ない……?
出ない!
カウントダウンが始まる気配はない。
よっしゃーー。
これさえ止まれば、こっちのもんだ。
マイクロソフトとシマンティック、両方のサイトを開いてみる。
と、明らかに内容が更新されている。刻々と。
説明のある頁もマイクロソフトから、TechNetセキュリティセンターに移っている。
シマンティックには、「駆除ツール」の文字が。
おお、出来たのねー。と嬉しくなる。
きっとブラウザの向こうは大変なことになっているのだろう。
ここでようやく、わたしは、
ウィルス対処サイトに関わる人々を気の毒に思うようになったのだった。
修正された対処法には、
まず[マイクロソフトの修正パッチをインストールせよ]とある。
さっそく修正パッチをダウンロード。
なぜか知らぬが立ち上がるようになったノートンをアップデートし、
その上で駆除ツールをダウンロードし、実行。
が。またもや、エラーーである。
何度やっても、途中で引っかかり、終了してしまう。
ああ、まったく、もう。
WindowsUpdateで、他にもDLする必要のあるものは?と診断してみると、
サービスパックなるものをインストールせよ、と出た。
DLにかかる時間1分とある。
楽勝じゃん。
が、しかし。
このDLを始めたとたん、わたしはココロから後悔した。
表示された「DLにかかる時間」は、なんと328分になっていたのだ。
はぁ??
もちろん通信状態により、所要時間は次々に変化していくのだが、
90分になったかと思うと、240分になるというワケの分からなさ。
接続先が混雑しているのか、それとも、ウィルスのせいでこのPCが不安定なのか。
キャンセルしようかと悩む。
だが、ウィルス駆除のために試せるものは全て試してみるしかない。
こういう時、一度キャンセルしてやり直してみると、
案外すんなり出来てしまうこともあるのだが、この状況下、
もう一度アクセスしたら繋がらない、なんてこともナキニシモアラズ。
ダメ元で続けてみるしかないだろう。
結局。
ダウンロード終了した時には、すっかり日が暮れていた。
午後10時。いつもならシッピツにかかる時間である。
ただでさえ進まぬシッピツに頭を抱えているというのに、
このアリサマはなんなのよ。
などと、ひとりブツブツ愚痴りながらも、
とにかくこの状況を打破すべく、再び作業開始。
マイクロソフトとシマンティックのサイトは、刻々と変化していく。
最初の「直訳論文」のような記事は、かなり整理され、
すべきことの「手順」が、まとめられていく。
それは有り難いのだが、ワケが分からないなりに「手動作業」を続けてきた者
としては、変更箇所に戸惑ってしまう。
最初はなかった「修正パッチ」が加わり、
その修正パッチの「前に」、サービスパックをDLせよ、とある。
あのねぇ、そんなこと今更言われたって。
そんな箇所が幾つもある。
細かな修正に首をひねりながら、もう一度駆除ツールを使うが結果は同じ。
しかたがなく、「手動駆除」に切り替える。
「ファイル名を指定して実行」し、駆除のコマンドを打ち込み、削除。
が、なんと。
出てきたメッセージは、「みつかりませんでした」
はぁん? そんなアホな。
新しくプリントした「手順」に、ラインマーカーで印をつけながら、
イチから手順をチェックしていく。
すべてオッケー。手抜かりはない。
ノートンを開き、ウィルススキャンをかける。
「異常ナシ」
念のため、今一度駆除ツールを実行する。
ようやく最後まで辿り着く。
が、感染ファイルは見つからない。
???
いったい、どういうことなんだ。
ウィルスは侵入したものの、ファイルには感染しなかったってことなのか?
(そんなことアルんだろうか?)
それとも、ああだこうだやってる手順の中のどこかで、
知らぬ間に、全て「駆除」できてしまったということなのか?
もしかして、途中で引っかかっていた駆除ツールは、
表示されなかっただけで最後まで任務を遂行していたのだろうか。
もう一度プリントを見て、「ここに潜んでいる可能性がある」という
細かなところまで、ぜーんぶ調べてみるが、ナイ。
ウィルスは、どこにもいないのだった。
「駆除」というからには、
「みつかりました。削除します」というメッセージが、
どこかで現れるものだと思っていた。
そこで、「削除!」してこそ、
「あー、すっきりした!」と安堵できるというものではないか。
ううむ。なんだかスッキリしない。
しつこく、スキャンしたり駆除ツールをかけたり、
オンラインスキャンまで再度やってみたが、結果はゼロ。
「異常ナシ」
とにかく。
イナイ、らしい。
とっぷりと夜も更けてきたことだし、もう少し様子をみるしかないか。
翌朝。
念には念を。
点検し、確認し、スキャンしてみたが、どこにも怪しいところはない。
なんだかすっきりと気配さえない(気配なんかで分かるわけもないのだけど)。
そうか。異常ナシ、か。
なぜだか、ようやく、「終わった」のだと思えた。
PCを蝕んでいたウィルスは消えたのだと、実感することができた。
感染した直後に「お知らせ&ご注意」メールを送った方々と、
アドレスが分からなかったために送ることの出来なかった方々に、
「お騒がせいたしました」のメールを書く。
アドレスが分からず、第一報を送れなかった方々にも、
事後報告になったことへのお詫びを書き添えて。
初めの「お知らせ」メールに対して、
わざわざ「お見舞い」メールをくださった方々も多い。
そんな皆さまへ、お詫びと感謝の気持ちを記して送った。
このMS BRASTというウィルスは、新聞やニュースで幾度も報道された。
わたしの知り合いだけでも、感染した、という報告が4件。
今までも大きな被害をもたらした「ウィルス」はあったが、
自分の周りでこんなに感染PCが出たのは初めてのことだった。
今も、「対策頁」は、更新されつづけている。
今では「対策」の一番最初に、「再起動されてしまう場合の対処法」が
ちゃんと明記されている。
初心者にも分かりやすいように、「イラストを交えた頁」も作られていて、
そこには、「するべきこと」だけが書かれている。
最初は、あまりにも「不親切」な「対策」に、
「ちょっと、なんとかしてよっっ」と憤慨してもいた。
が、ブラウザのずっと向こう、各対策サイトでは、
それこそ「なんとか」しようと、大勢のヒトが必死に動いていたのだろう。
大変だったろうと、つくづく思う。
今となれば、なんだか「同士」のような気さえしてくる。
今回は「メールでは感染しない」ということだけが救いだった。
だが、これが、延々とメールを送り続けるようなウィルスだったら……。
あるいは、ファイルを次々に壊していくようなウィルスだとしたら……。
数日前に、「消えた20枚」という書評をブログに書いたばかりのわたしは、
「一度書いた原稿が消えてなくなる」恐怖を思い、ぞっとした。
コンピューターウィルスとは、まさに「ウィルス」だ。
ニンゲンのカラダを侵す「病原菌」と変わらない。
ちょっとした隙をついて侵入し、潜み、発症する。
最善の手をつくして、根こそぎ「取り除いて」はみても、
もしかしたら星の数ほどもある細胞と細胞の透き間のどこかで、
隙あらば暴れてやると、じっと潜んでいるのではないかと不安になる。
そんな「菌」を撒き散らした犯人は、
全世界に戦争をしかけているのと同じことだ。
戦争やテロはどんなものでも惨(むご)いものだが、
毒ガスや細菌を使っての大量殺戮ほど、卑怯で惨いものはない。
いかなる理由があろうとも、決して許されるものではない。
幾たびものダウンロードやインストールをする間に、
モニター横のPC本体が、かたかたかたと音を立てるのを聴いていた。
じじじじっ、るるる、と音が変化していくたびに、
このちっちゃな箱の中で、いったい何が行われているのだろう、
そう思っていた。
この箱を開けてみたところで、
ちいさな蟻のような何者かが無数にいて、慌ただしく手足を動かし働いている、
なんてことがあるはずもないと知りながら、
わたしは、その箱を開けてみたくてしかたがなかった。
できることならば、この手でその「ウィルス」を摘みだし、
捻りつぶしてやりたかった。
シャットダウンへの秒読みは、
悪戯に繰り返される死刑執行へのカウントダウンのようで不気味だった。
そのたびに、再起動を繰り返すPCは、
まるでココロを壊してしまったヒトのようで、哀しかった。
かたかたと震えながらも、必死に動き続けるPCは、
なんだか健気で愛おしかった。
PCにだって、ココロもあれば、カラダもある。
共に戦った今、そんな気がしてしかたがない。
