
すいきんくつ
ひらがなで、ゆっくりそう呟くと、
くりかえし呟くと、
何かの呪文のようでもある。
子どもの頃に読んだ、お話しの。
小石の上に、
そっとひしゃくで水をそそぐと、
澄んだ音色がきこえてくる。
かろん、からりん。
ころころころ。
あめ玉のような水の玉が、
ひんやりとした石肌を転がっていくような、
そんな音。
ここに来るまでの道すがら、
泣きべそをかいている女の子がいた。
なんだか、ぐずぐずと言っている。
隣を歩く母親をみあげながら、
もつれるように足を運んで。
急ぎの用事でもあるのか、母親は、
バッグから小さな箱を出して、
せかせかとした口調でその子に言った。
アメ、あげるから。
ぐずぐず泣いてた女の子は、
とたんに晴れやかな顔になり、
涙で濡れたまつげをぬぐい、
手の中のアメを握りしめた。
行きすぎたあと、
感心したようにミメオが言った。
あめ玉ひとつで、しあわせになれるんだなぁ。
あめ玉ひとつで。
あめ玉ひとつでしあわせになれたのは、
いつの頃までだったのか。
あめ玉よりも、もっと違うしあわせを
望むようになったのは、いつからだろう。
おとなの欲しがるあめ玉は、
からん、ころころと転がっていく
水玉みたいなものだろうか。
てのひらにすくったとたんに、
それはもうあめ玉ではなく、
次から次へと転がる水の玉を、
むやみに追いかけていくばかり。
ほんとうのあめ玉は、
手の中にあるのに。
すいきんくつ
何かの呪文のように唱えてみる。
あめ玉ひとつで、
しあわせになれた子どもに戻って、
水をそそぎながら、唱えてみる。
すいきんくつ。
すいきんくつ。
